【決定版】フェルナン・ブローデルを解説【三層構造も説明】

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目次

フェルナン・ブローデルとは

影響力
作品
フェルナンブローデルとは?

フェルナン・ブローデル(1902-1985)はフランスの歴史学者です。

20世紀を代表する歴史学者の一人で、地理学・経済学・社会学などを統合した総合的な歴史研究を得意としています。

アナール学派(地理学・経済学・社会学などにまたがって歴史を研究するフランスの学派)の中心人物でもあります。

経歴

出生~学生時代
1902年

フランスのリュメヴィル・アン・オルノワに生まれる。

1909年

フランスのパリに引っ越す。

1920年

ソルボンヌ大学に入学する。

当初は医学に興味を持っていたが、父の反対もあって歴史学を専攻した。

社会史・経済史など、当時の主流ではなかった分野に興味を持つ。

卒業論文のタイトルは「バール・ル・デュックにおけるフランス革命の始まり」

リセの教員時代~サンパウロ大学時代
1923年

アルジェリア・コンスタンティーヌのリセの教員となる。

1925年~1926年

兵役でドイツに滞在する。

ここでドイツに失望し、ドイツ史の博士論文を書く計画を中止する。

1926年

アルジェリア・アルジェのリセの教員となる。

1932年

フランス・パリのリセの教員となる。

1935年

サンパウロ大学に赴任する。

第二次世界大戦~アナール学派への参加
1939年

第二次世界大戦が発生し、ブローデルも戦争に動員される。

1940年

ドイツの捕虜となる。

収容所の中で博士論文『フェリペ2世時代の地中海と地中海世界』を執筆する。(1947年に博士論文として受理され、1949年に出版される)

1947年

『年報(アナール)』の編集者となる。

こうしてアナール学派に参加するようになる。

高等研究院の第六部門に所属する。

1949年

コレージュ・ド・フランスの教授となる。

1956年

リュシアン・フェーヴルが死亡する。

これに伴い『年報(アナール)』の事実上の編集責任者となる。

また高等研究院第六部門部長の役職も引き継ぐ。

1968年

『年報(アナール)』の編集から退く。

1972年

高等研究院第六部門の部長を退任する。

晩年
1979年

『物質文明・経済・資本主義』を発表する。

1984年

アカデミー・フランセーズの会員となる。

1985年

死亡する。

『フランスのアイデンティティ』が未完に終わる。

1986年

未完の著作『フランスのアイデンティティ』が出版される。

特徴

特徴

地理学・経済学・社会学などを統合した総合的な歴史研究を得意とし、歴史を全体的にとらえる「全体史」を目指しました。

歴史学は人間諸科学を統合する学問であり、社会科学の中心であるべきだと考えました。

また短期的な事件のみを研究対象とすることを避け、背景にある社会状況や構造にも注意しました。(これについては「ブローデルの三層構造」の章でくわしく解説しています。)

アナール学派でのポジション

アナール学派の第二世代における中心人物です。

第一世代の中心人物であるリュシアン・フェーヴルの死後、『アナール』の事実上の最高編集者となり、アナール学派を牽引しました。

ブローデルが編集責任者になってから『アナール』のページ数が増大したことも知られており、より活発な活動が行われました。

また複数のアナール学派の研究者がブローデルから影響を受けたことを明言しており、後の世代への影響力も見過ごせません。

評価

その革新的な研究手法から、20世紀を代表する歴史学者とされています。

20世紀前半のフランスでは、これまでの政治史に偏った歴史研究を拒否し、他の学問の要素を取り入れる運動が起こっていました。

ブローデルはこの運動の完成者ともいえる人物で、主著『地中海』における複数の学問を横断した総合的な歴史研究は、それ以降の歴史学界に大きな影響を与えました。

研究の細かい部分について否定的な指摘がなされる場合もありますが、ブローデルの歴史学への貢献は非常に大きいです。

ブローデルの三層構造

三層構造とは?

歴史を「短期波動」・「中期波動」・「長期波動」の3つの構造でとらえる考え方です。

「短期波動」は短期的な事件のこと、「中期波動」は中期的な状況のこと、「長期波動」は長期的に持続する構造のことを表します。

三層構造の内容

三層構造とは、歴史を「短期波動」・「中期波動」・「長期波動」の3つの構造でとらえる考え方です。

短期的な事件である「短期波動」は、中期的な社会状況に影響されて発生します。

中期的な社会状況である「中期波動」は、長期間変化しない構造を土台として形成されます。

長期的に持続する構造である「長期波動」は、すべての土台となります。

それまでの歴史学は三層構造でいうところの「短期波動」への傾倒が強く、中長期的な景況・構造を考察対象に含めたブローデルの研究手法は革新的でした。

以下では三層構造の具体例を紹介していきます。

『地中海』における三層構造

ブローデルの著作『地中海』では以下のような三層構造が用いられました。

これによって、16世紀頃の地中海世界が説明されました。

  • 「短期波動」=地中海周辺で発生した出来事
  • 「中期波動」=地中海周辺の社会的状況
  • 「長期波動」=地中海周辺の地理などの環境

『物質文明・経済・資本主義』における三層構造

ブローデルの著作『物質文明・経済・資本主義』では以下のような三層構造が用いられました。

これによって、世界経済が説明されました。

  • 「短期波動」=資本主義
  • 「中期波動」=市場経済
  • 「長期波動」=慣習的な日常生活、食物や衣服などの物質文明

『ヨーロッパ』における三層構造

ブローデルの著作『ヨーロッパ』においては、以下のような三層構造が用いられました。

これによって、ヨーロッパの宗教が説明されました。

  • 『短期波動』=人文主義者や知識人(無神論を生み出す人々)
  • 『中期波動』=教会が組織した公式の宗教
  • 『長期波動』=民衆信仰

代表作

フェルナン・ブローデルの代表作は?

最大の代表作は『地中海』です。

『地中海』は歴史学界でもトップクラスの有名作品で、現在でも歴史学の定番書となっています。

その他にも『物質文明・経済・資本主義』や『フランスのアイデンティティ』がよく知られています。

地中海(正式タイトル:フェリペ2世時代の地中海と地中海世界)

『地中海』は、1949年に出版されたフェルナン・ブローデルの作品です。

正式タイトルは『フェリペ2世時代の地中海と地中海世界』です。

アナール学派の第一世代に影響されて執筆された作品で、地中海を「環境」・「社会」・「事件」の三層構造でとらえて叙述しました。

地理史・経済史・社会史・事件史などが統合されており、歴史を全体的にとらえた作品となっています。

これ以降の歴史研究に大きな影響を与えた革新的な一冊です。

物質文明・経済・資本主義

『物質文明・経済・資本主義』は、1979年に出版されたフェルナン・ブローデルの作品です。

リュシアン・フェーヴルの依頼によって1952年から構想していた作品で、世界経済を「物質文明」・「市場経済」・「資本主義」の三層構造でとらえて叙述しました。

「経済の拡大」と「経済の中心の変化」を通して、近代の経済を論じました。

フランスのアイデンティティ

『フランスのアイデンティティ』は、1986年に出版されたフェルナン・ブローデルの作品です。

ブローデルの死後に発表された未完の作品で、フランスの歴史を研究対象として執筆されました。

従来のフランス史とは異なり、フランスの全体史を目指した作品です。

おわりに

フェルナン・ブローデルは、当サイトの「有名な歴史学者7選」に選出されています。

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この記事を書いた人

■慶應義塾大学文学部日本史学専攻卒
■歴史学の本を年間100冊以上読む

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