【決定版】アンリ・ピレンヌを解説【ピレンヌ・テーゼも説明】

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目次

アンリ・ピレンヌとは

影響力
作品
アンリ・ピレンヌとは?

アンリ・ピレンヌ(1862-1935)はベルギーの歴史学者です。

中世ヨーロッパの社会経済史を得意としています。

中世ヨーロッパの始まりについての「ピレンヌ・テーゼ」という学説を提唱したことでも有名です。

アナール学派にも影響を与えており、アナール学派の編集委員も務めました。

経歴

出生~学生時代
1862年

ベルギーのヴェルヴィエに生まれる。

父親は毛織物工場を経営しつつ、地方新聞の発行や市会議員なども行っていた。

1879年

リエージュ大学に入学する。

当初は法律を勉強していたが、ゴドフロワ・クルトの講義をきっかけに中世史を専攻するようになる。

1882年

最初の著作である『リエージュのセドリウス』を発表する。

これは中世文化史の作品だった。

1883年

パリで古文書学を学ぶ。

1884年

ドイツで複数の学者に学ぶ。

この時、経済史・文化史を得意とするカール・ランプレヒトと交流した。

リエージュ大学・ガン大学の教員時代
1885年

リエージュ大学の講師となる。

古文書学の講義を担当した。

1886年

ガン大学の助教授となる。

中世史を担当した。

1889年

『中世ディナン制度史』を発表する。

1899年~1900年

大著『ベルギー史』の第1巻を発表する。(1899年にドイツ語版、1900年にフランス語版)

1914年

第一次世界大戦が発生し、ガン大学が一時閉鎖される。

1916年

ドイツの占領軍当局に逮捕され、収容所に送られる。

1918~1919年

第一次世界大戦が終わり、収容所から解放される。

ガン大学の学長に就任する。

1925年~1927年

『中世都市―社会経済史的試論』を発表する。(1925年に英語版、1927年にフランス語版)

1930年

ガン大学を退職する。

晩年
1932年

大著『ベルギー史』の第7巻を発表する。

これが『ベルギー史』の最終巻となる。

1933年

『ヨーロッパ中世社会経済史』を発表する。

1935年

死亡する。

1937年

ピレンヌ・テーゼで知られる『マホメットとシャルルマーニュ』が出版される。

特徴

特徴

中世ヨーロッパを専門とし、特に社会経済史の研究を得意としました。

当時の中世ヨーロッパの研究は政治史などへの偏りが強かったため、ピレンヌの研究は画期的でした。

また高品質な問いを立てることを重要視しており、ピレンヌの研究は問題設定が革新的なものが多いです。

問題設定を重視する一方で、研究結果はむしろ後代の歴史学者に修正されることを望んでいたほどでした。

現在の評価

ピレンヌの学説は、現在では修正・否定されているものが多いです。

とはいえ、ピレンヌの功績は革新的な問題設定を行ったところにあります。

歴史研究に新しい視点や方向性を与えたところは評価されるでしょう。

アナール学派との関係

アナール学派とは、歴史学に地理学・経済学・社会学などの知見を統合し、歴史研究の拡大を目指した一派です。

ピレンヌは、社会経済史や比較史の重要性を説き、アナール学派にも影響を与えた人物です。

またピレンヌは、アナール学派の創設者であるリュシアン・フェーブルマルク・ブロックと交流を持ち、アナールの編集委員にもなりました。

ちなみにアナールの編集長の依頼もありましたが、それは断りました。

ピレンヌ・テーゼ

ピレンヌ・テーゼとは?

ピレンヌ・テーゼは、アンリ・ピレンヌの著作『マホメットとシャルルマーニュ』で提唱された学説です。

「中世ヨーロッパは、イスラームの影響によって始まった」と主張し、歴史学界に大きな論争をもたらしました。

以下では、世界史の知識がなくても理解できるように、ピレンヌ・テーゼを丁寧に説明していきます。

ピレンヌ・テーゼの内容

ピレンヌ・テーゼは、アンリ・ピレンヌの著書『マホメットとシャルルマーニュ』で提唱された学説です。

ヨーロッパにおける古代から中世への時代の変化がいつ起こったのかを論じました。

内容は、以下の3点にまとめられます。

  • 古代ヨーロッパの終了は「ゲルマン人の大移動」「西ローマ帝国の滅亡」とは関係がない。西ローマ帝国の滅亡後も、地中海世界の統一は保たれていた。
  • 古代ヨーロッパの終了は「イスラームの台頭」によって地中海世界の統一が崩れることで起こった。
  • 「イスラームの台頭」によって秩序が乱れたことが「カロリング朝の台頭」につながり、中世ヨーロッパが始まった。

細かく説明していきます。

古代のヨーロッパでは、ギリシアの衰退後、ローマが台頭していきます。

そして紀元前3世紀頃からローマは領土を拡大し、ヨーロッパ各地を支配していきます。

そして4世紀後半にはローマにゲルマン民族が侵入し、476年に西ローマ帝国が滅亡し、いわゆる古代ローマの時代が終わります。

この「西ローマ帝国の滅亡」を古代ヨーロッパの終了とする説もありましたが、ピレンヌ・テーゼはそれを否定しました。

西ローマ帝国の滅亡後も、ヨーロッパは本質的には変化していないと考えたのです。

その代わりにピレンヌ・テーゼでは、「イスラームの台頭」と古代ヨーロッパの終了を結びつけました。

古代ヨーロッパの終了は、7世紀にイスラームが台頭して地中海の秩序を破壊し、西ヨーロッパの既存の勢力が衰退したことで発生したと考えたのです。

そして8世紀に新たな勢力であるカロリング朝が台頭し、西ヨーロッパで新たな秩序が形成され、中世ヨーロッパへ移行したと考えました。

「マホメットなくしてシャルルマーニュなし」とは

「マホメットなくしてシャルルマーニュなし」とは?

「マホメットなくしてシャルルマーニュなし」とは、ピレンヌ・テーゼについての有名な表現です。

これは「マホメット(イスラームの創始者)の台頭がなければ、シャルルマーニュ(カロリング朝のカール大帝)が権力を握ることはなかった」という意味で、ピレンヌ・テーゼの本質を一言で表したものです。

このような言葉は、実際にアンリ・ピレンヌの著書『マホメットとシャルルマーニュ』の中に登場します。

評価

ピレンヌ・テーゼには否定的な研究者も多いです。

もちろん一部の研究者には支持されましたが、ピレンヌ・テーゼが定説になっているとは言えないでしょう。

アメリカの歴史学者アーチボルド・ルイスは、「古代地中海の統一を崩壊させたのは、イスラームではなくビザンツ帝国である」と論じ、ピレンヌ・テーゼを否定しました。

またダニエル・デネトやクロード・カーエンは、「イスラームの台頭後も地中海の交易は続いた」と論じ、ピレンヌ・テーゼを否定しました。

このほかにも様々な意見があり、ピレンヌ・テーゼについての議論は白熱しています。

ピレンヌ・テーゼの功績は、その内容が正しいかどうか以上に、斬新な問題提起によって議論を活性化させた点にあります。

代表作

アンリ・ピレンヌの代表作は?

最も有名なのは『マホメットとシャルルマーニュ』です。

これは前述した「ピレンヌ・テーゼ」を提唱したことで知られる作品です。

それ以外には『ベルギー史』、『中世都市―社会経済史的試論』、『ヨーロッパ中世社会経済史』などが代表作として挙げられます。

ベルギー史

『ベルギー史』は1900年~1932年にかけて発表されたアンリ・ピレンヌの作品です。

全7巻の大著で、ピレンヌが長い年月をかけて執筆しました。

社会経済史に政治史・文化史などを統合し、ベルギーの歴史を叙述しました。

中世都市―社会経済史的試論

『中世都市―社会経済史的試論』は、1925年に発表されたアンリ・ピレンヌの作品です。

政治史・法制史の視点から研究されることが多かった中世の都市を、社会経済史の視点から研究しました。

本書の理論は批判されている部分も多いですが、当時としては斬新な問題提起をした点が評価できます。

ヨーロッパ中世社会経済史

『ヨーロッパ中世社会経済史』は、1933年に発表されたアンリ・ピレンヌの作品です。

大学教員を退職してから発表された著作で、ピレンヌの中世社会経済史研究の集大成的な一冊です。

マホメットとシャルルマーニュ(邦題:ヨーロッパ世界の誕生)

『マホメットとシャルルマーニュ』は、1937年に発表されたアンリ・ピレンヌの作品です。

日本では『ヨーロッパ世界の誕生』というタイトルでも知られます。

ヨーロッパにおける古代から中世への移行をテーマに、ピレンヌ・テーゼを提唱しました。

くわしくは前述の「ピレンヌ・テーゼ」の章をご覧ください。

おわりに

以下の記事では、歴史学をまとめて解説しています。

歴史学の基本をざっくり学びたい方は、こちらの記事もおすすめです。


参考文献

坂口昻吉編著『地中海世界と宗教』慶應通信,1989.
竹岡敬温『『アナール学派』と社会史―「新しい歴史」へ向かって―』同文館,1990.
『岩波講座 世界歴史7 ヨーロッパの誕生』岩波書店,1998.
尾形勇・樺山紘一・木畑洋一編『20世紀の歴史家たち(3)世界史編 上』刀水書房,1999.
アンリ・ピレンヌ『ヨーロッパ世界の誕生 マホメットとシャルルマーニュ』増田四郎監修,中村宏・佐々木克巳訳,講談社,2020.

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この記事を書いた人

■慶應義塾大学文学部日本史学専攻卒
■歴史学の本を年間100冊以上読む
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