『ネイションとエスニシティ』を書評【著者・内容・評価】

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『ネイションとエスニシティ』とは

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『ネイションとエスニシティ』とは?

『ネイションとエスニシティ』は1986年に発表されたアントニー・D・スミスの作品です。

近代以前にナショナリズムの起源があることを指摘し、ナショナリズム研究に大きな影響を与えました。

前提知識:ナショナリズムとは

ナショナリズムとは、国民(文化的に同質な人々の集団)を重視する思想・運動のことです。

独立した国民国家を形成しようとする思想・運動と定義されることもあります。

著者

この本の著者は、イギリスの社会学者アントニー・D・スミスです。

ナショナリズムの研究を得意としており、政治学や歴史学の教授資格も保有する人物です。

代表作は『20世紀のナショナリズム』、『ネイションとエスニシティ』などです。

内容

「エトニ」を分析

本書の前半では、「エトニ」について分析されていきます。

「エトニ」は古来からある共同体で、6つの特徴があります。

  • 名前がある
  • 祖先を共有している(少なくともそう思われている)
  • 歴史を共有している
  • 文化を共有している
  • 特定の領域と結びついている
  • 連帯感がある

そして古代・中世において、さまざまなエトニが存在したことが説明されます。

「エトニ」と「ネイション」の連続性を分析

本書の後半では、古代・中世の「エトニ」が土台となり、近代の「ネイション」が形成されたと主張されます。

ちなみに「ネイション」とは国民のことで、現在の日本人、フランス人、ドイツ人などの共同体を指します。

この立場はエスノシンボリズムと言われ、これ以降のナショナリズム研究に影響を与えました。

ナショナリズム研究における立ち位置

ナショナリズム研究の近代主義を批判した

当時のナショナリズム研究では、ネイション(国民)は近代に誕生したとされていました。(近代主義)

しかし本書は、近代以前の共同体である「エトニ」がネイションの土台となっていることを指摘し、近代主義を否定しました。

この考えはエスノシンボリズムと呼ばれ、これ以降のナショナリズム研究に影響を与えました。

評価

総合評価

ネイションとエスニシティ
総合評価
( 4.5 )
メリット
  • ナショナリズム研究におけるエスノシンボリズムの考えを理解できる
  • 古代・中世の共同体について学べる

エトニとネイションの連続性を分析した作品です。

古代・中世の共同体としての「エトニ」と、近代の「ネイション」の理解を深めることができます。

高校の教科書レベルの背景知識で十分読むことができ、背景知識がなくてもそれなりに読めるでしょう。

ナショナリズムを本気で学ぶなら必読

本書は、ナショナリズム研究の古典であり、この分野の必読書とされることも多い作品です。

特に近代主義(ネイションは近代に成立したとする立場)を否定した文献としては最も代表的なものです。

ナショナリズムを本気で勉強したい人は、本書を読んでおくのがおすすめです。

『想像の共同体』『民族とナショナリズム』とあわせて読むのも◎

本書はナショナリズムの反近代主義の作品ですが、近代主義の作品もあわせて読むとバランスが良いでしょう。

具体的な作品としては、『想像の共同体』『民族とナショナリズム』などの近代主義の古典がおすすめです。

余裕がある人は、これらの作品も検討してみてください。


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おわりに

以下の記事では、歴史学をまとめて解説しています。

歴史学の基本をざっくり学びたい方は、こちらの記事もおすすめです。


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この記事を書いた人

■慶應義塾大学文学部日本史学専攻卒
■歴史学の本を年間100冊以上読む

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