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アナール学派とは
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- アナール学派とは?
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アナール学派とは、20世紀フランスで成立した歴史学の学派です。
歴史学に地理学・経済学・社会学・言語学・人類学・心理学などの知見を融合し、総合的な歴史研究を目指しました。
それまでの歴史学は政治史・事件史・軍事史の研究が主流でしたが、社会史・心性史・数量史などの新分野を普及させていきました。
アナール学派の特徴
特徴
地理学・経済学・社会学・言語学・人類学・心理学など複数の学問を歴史研究に統合させ、総合的な歴史研究を目指しました。
社会史・心性史・数量史などの分野を普及させたことでも知られます。(これらの分野については「アナール学派の主要な研究分野」の章でくわしく解説しています)
学問上の功績
歴史学の研究対象の拡大に大きく貢献しました。
当時の歴史学は政治史・事件史・軍事史に偏っていたため、心性史・社会史・数量史などの新分野を普及させたのは重要な功績です。
またアナール学派が影響を与えたのは歴史学者だけでなく、地理学者・社会学者・人類学者なども含まれます。
社会学者のイマニュエル・ウォーラーステイン(歴史学に大きな影響を与えた世界システム論の提唱者)もアナール学派から影響を受けた人物です。
批判
社会史・心性史などを普及させた一方で、従来の政治史を軽視しすぎているという批判があります。
アナール学派の台頭によってフランスの政治史研究がむしろ衰退したと指摘されることもあります.
アナール学派の主要な研究分野
社会史
社会史とは、過去の社会関係などを研究対象とする歴史学の分野です。
アナール学派の初期から存在する研究分野です。
代表作としては、ブロック『封建社会』、デュビー『三身分』などが挙げられます。
心性史
心性史とは、人間の思考・心情を研究対象とする歴史学の分野です。
アナール学派の初期から存在する研究分野です。
代表作としては、フェーヴル『16世紀における不信仰の問題―ラブレーの宗教』、ブロック『王の奇跡』などが挙げられます。
経済史
経済史とは、経済を研究対象とする歴史学の分野です。
アナール学派の初期から存在する研究分野です。
特にアナール学派の第二世代において注力された分野です。(世代については「アナール学派の歴史」の章でくわしく解説しています)
代表作としては、ブローデル『物質文明・経済・資本主義』などが挙げられます。
物価史
物価史とは、物価の変動などを研究対象に取り入れた歴史学の分野です。
エルネスト・ラブルースの『18世紀フランスの物価と所得の動き概要』(1933)をきっかけに本格化した分野で、数量史(数量データを用いる歴史研究)の先駆けとなった分野でもあります。
エルネスト・ラブルースは数量史を開拓した重要人物ですが、厳密にはアナール学派に属しませんのでご注意ください。
歴史人口学
歴史人口学とは、人口動態などを研究対象に取り入れた歴史学の分野です。
数量データを用いるため、数量史に属する分野となります。
第二次世界大戦後に研究が始まった分野で、アナール学派では1960年代から研究が本格化しました。
歴史人口学の要素がみられる作品としては、ル・ロワ・ラデュリ『ラングドック地方の農民』、アリエス『18世紀以後のフランス人口と生にたいするその態度の歴史』などが挙げられます。
歴史人類学(歴史民俗学)
歴史人類学(歴史民俗学)とは、人類学の手法を取り入れた歴史学の分野です。
単発の歴史的事件ではなく、人間の日常や習慣にも注目が向けられます。
アナール学派の第三世代で研究された分野です。(世代については「アナール学派の歴史」の章でくわしく解説しています)
生物人類学、経済人類学、社会人類学、文化人類学、政治人類学などに細かく分類されます。
代表作としては、ル・ロワ・ラデュリ『ラングドック地方の農民』『モンタイユー』(社会人類学)、デュビー『戦士と農民・7-12世紀』(経済人類学)、アリエス『死を前にした人間』(生物人類学)などが挙げられます。
政治学
政治史とは、政治を研究対象とする歴史学の分野です。
歴史学の定番分野ながら、アナール学派ではあまり重視されておらず、むしろ避けられる場合もありました。
アナール学派の第一世代・第二世代ではあまり研究されず、第三世代において若干研究されました。(世代については「アナール学派の歴史」の章でくわしく解説しています)
アナール学派の歴史
成立まで
成立まで
アンリ・ベールの『歴史総合評論』が創刊されるなど、既存の歴史研究へのに反発が起きました。
この『歴史総合評論』を通じて、歴史学者のリュシアン・フェーヴルやマルク・ブロックは、社会学者のエミール・デュルケム、経済学者のフランソワ・シミアン、地理学者のヴィダル・ド・ラ・ブラーシュ、心理学者のアンリ・ヴァロンなどと交流しました。
年表
- 1900年
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フランスの哲学者アンリ・ベールが『歴史総合評論』を創刊する。
これは実証主義史学(細部の正確性にこだわり、政治史や軍事史に偏っていた歴史学)への反発であり、歴史学の新しい研究手法が模索された。 - 1905年
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フランスの歴史学者リュシアン・フェーヴルが『歴史総合論評』への寄稿を始める。
- 1912年
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フランスの歴史学者マルク・ブロックが『歴史総合論評』への寄稿を始める。
- 1919年
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フェーヴルがストラスブール大学の教授となる。
ブロックがストラスブール大学の助教授となる。
こうしてフェーヴルとブロックが出合う。
- 1922年
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フェーヴル『大地と人類の進化―歴史への地理学的序論―』が発表される。
- 1924年
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ブロック『王の奇跡』が発表される。
- 1928年
-
フェーヴル『ある運命、マルティン・ルター』が発表される。
第一世代
第一世代
第一世代は、リュシアン・フェーヴルとマルク・ブロックがアナール学派を創設した時代です。
当時の歴史学は政治史・軍事史が中心でしたが、そこに心性史・社会史などの分野を開拓していきました。
年表
- 1929年
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フェーヴルとブロックによって『社会経済史年報』が創刊される。
これがアナール学派の始まりとなる。(アナールは「年報」の意味)
『社会経済史年報』の編集委員には、歴史学者のアンドレ・ピガニヨル、ジョルジュ・エスピナス、アンリ・ピレンヌ、アンリ・オゼールの4人に加えて、社会学者のモーリス・アルヴァクス、経済学者のシャルル・リスト、政治学者のアンドレ・シーグフリート、地理学者のアルベール・ドマンジョンがいた。
複数の学問の研究者が関わることで、既存の実証主義史学よりも広い視点での歴史研究が目指された。
- 1931年
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ブロック『フランス農村史の基本性格』が出版される。
- 1939年~1940年
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ブロック『封建社会』全2巻が出版される。
- 1942年
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フェーヴル『16世紀における不信仰の問題―ラブレーの宗教』が出版される。
- 1944年
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フェーヴル『エプタメロンをめぐって―聖なる愛と世俗の愛』が出版される。
- 1944年
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ブロックが死亡する。
- 1947年
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フェルナン・ブローデルが『アナール』の編集に参加する。
- 1956年
-
フェーヴルが死亡する。
第二世代
第二世代
年表
- 1949年
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ブローデル『地中海』が出版される。
- 1956年
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ブローデルが『アナール』の事実上の最高責任者となる。
ブローデルが高等研究院第六部門の部長となる。
これにより、フェーヴルに代わってブローデルがアナール学派の中心となる。
- 1968年
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ブローデルが『アナール』の編集から退く。
- 1972年
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ブローデルが高等研究院第六部門の部長を退任する。
- 1979年
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ブローデル『物質文明・経済・資本主義』が発表される。
第三世代
第三世代
第三世代は、アナール学派の方向性が多様化していった時代です。
ジャック・ル・ゴフ、エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ、マルク・フェローが編集の中心となりました。
第二世代ではあまり重視されなかった心性史や文化史の研究も盛んになり、歴史人類学の研究も行われました。
これまでのアナール学派で避けられてきた政治史や事件史の研究を行う者も現れました。
年表
- 1957年
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ル・ゴフ『中世の知識人』が発表される。
- 1960年
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アリエス『<子供>の誕生』が発表される。
- 1966年
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ル・ロワ・ラデュリ『ラングドック地方の農民』が発表される。
- 1968年
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ブローデルの退任に伴い、ル・ゴフ、ル・ロワ・ラデュリ、フェローが『アナール』の編集の中心となる。
- 1969年
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アンドレ・ビュルギエールやジャック・ルベルなどの新世代が『アナール』の運営に関わるようになる。
- 1972年
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ジャック・ル・ゴフが高等研究院第六部門の部長となる。
- 1973年
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デュビー『戦士と農民・7-12世紀』が発表される。
- 1975年
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ル・ロワ・ラデュリ『モンタイユー』が発表される。
- 1977年
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アリエス『死を前にした人間』が発表される。
ル・ゴフ『中世の知識人』が発表される。
- 1981年
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ル・ゴフ『煉獄の誕生』が発表される。
- 1985年
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ル・ゴフ『中世の夢』が発表される。
フェロー『監視下の歴史』が発表される。
代表的な研究者
- アナール学派の代表的な研究者は?
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代表的な研究者としては、創設者であるリュシアン・フェーヴルとマルク・ブロック、第二世代を牽引したフェルナン・ブローデルが挙げられます。
その他にはフィリップ・アリエス、ジョルジュ・デュビー、ジャック・ル・ゴフ、エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ、マルク・フェローなど多数の有名な歴史家がいます。
リュシアン・フェーヴル
リュシアン・フェーヴル(1878-1956)はフランスの歴史学者です。
アナール学派の創設者の一人です。
アナール学派の第一世代を牽引しました。
16世紀を専門とし、特に心性史(人間の思考や心情に注目した歴史)の研究を得意としています。
代表作は『大地と人類の進化―歴史への地理学的序論―』、『ある運命、マルティン・ルター』、『16世紀における不信仰の問題―ラブレーの宗教』、『エプタメロンをめぐって―聖なる愛と世俗の愛』などです。
マルク・ブロック
マルク・ブロック(1886-1944)は、フランスの歴史学者です。
アナール学派の創設者の一人です。
アナール学派の第一世代を牽引しました。
中世ヨーロッパを専門とし、特に社会史の研究を得意としています。
代表作は『王の奇跡』、『フランス農村史の基本性格』、『封建社会』などです。
フェルナン・ブローデル
フェルナン・ブローデル(1902-85)は、フランスの歴史学者です。
1956年に事実上の最高編集者となり、アナール学派の第二世代を牽引しました。
20世紀を代表する歴史学者で、地理学・経済学・社会学などを統合した総合的な歴史研究を得意としています。
代表作は『フェリペ2世時代の地中海と地中海世界(通称:地中海)』、『物質文明・経済・資本主義』などです。
フィリップ・アリエス
フィリップ・アリエス(1914-84)は、フランスの歴史学者です。
アナール学派の第三世代に属します。
1979年に社会科学研究学院の教授となるまでは、副業で歴史研究をしていた「日曜歴史家」でした。
子供や死など、独特なテーマを研究したことで知られています。
代表作は『諸住民の歴史』、『子供の誕生』、『死を前にした人間』などです。
ジョルジュ・デュビー
ジョルジュ・デュビー(1919-)は、フランスの歴史学者です。
アナール学派の第三世代に属します。
中世を専門とし、元々は社会経済史を得意としていましたが、途中から心性史に興味が移りました。
代表作は『戦士と農民』、『三身分』などです。
ジャック・ル・ゴフ
ジャック・ル・ゴフ(1924-)は、フランスの歴史学者です。
アナール学派の第三世代における編集委員の一人です。
ブローデルの跡を継ぎ、1972年に高等研究院第六部門の部長となった人物です。
中世の心性史研究に定評があります。
代表作は『中世の知識人』、『煉獄の誕生』、『中世の夢』などです。
マルク・フェロー
マルク・フェロー(1924-)は、フランスの歴史学者です。
アナール学派の第三世代における編集委員の一人です。
元々の専門分野は近現代ロシア史ですが、世界大戦や植民地など幅広いジャンルを研究しました。
代表作は『新しい世界史』、『監視下の歴史』などです。
エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ
エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ(1929-)は、フランスの歴史学者です。
アナール学派の第三世代において編集委員の一人です。
ラブルースやブローデルから影響を受けており、社会経済史・心性史・政治史などを幅広く研究しました。
また人類学やフロイトの精神分析を歴史研究に取り入れるなど、新たなアプローチを生み出した人物です。
代表作は『モンタイユー』、『ラングドック地方の農民』などです。
おわりに
以下の記事では、歴史学をまとめて解説しています。
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