『銃・病原菌・鉄』を書評【内容・批判もわかりやすく解説】

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目次

銃・病原菌・鉄とは

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『銃・病原菌・鉄』とは?

『銃・病原菌・鉄』は1997年に発表されたジャレド・ダイアモンドの作品です。

地域ごとの環境の違いが歴史に影響していることを示し、世界的なベストセラーとなりました。

アメリカでピュリッツァー賞を受賞したり、朝日新聞の「ゼロ年代の50冊」で1位に選ばれるなど、国内外で広く支持されています。

著者

この本の著者は、アメリカの生理学者・進化生物学者・生物地理学者のジャレド・ダイアモンドです。

生理学や進化生物学を専門としながら、歴史関連の研究も行う人物です。

代表作は『銃・病原菌・鉄』、『昨日までの世界』、『文明崩壊』、『危機と人類』などです。

目次

本書の目次は以下の通りです。

プロローグ ニューギニア人ヤリの問いかけるもの

第1部 勝者と敗者をめぐる謎

 第1章 一万三〇〇〇年前のスタートライン

 第2章 平和の民と戦う民の分かれ道

 第3章 スペイン人とインカ帝国の激突

第2部 食糧生産にまつわる謎

 第4章食糧生産と征服戦争

 第5章 持てるものと持たざるものの歴史

 第6章 農耕を始めた人と始めなかった人

 第7章 毒のないアーモンドのつくり方

 第8章 リンゴのせいか、インディアンのせいか

 第9章 なぜのシマウマは家畜にならなかったのか

 第10章 大地の広がる方向と住民の運命

第3部 銃・病原菌・鉄の謎

 第11章 家畜がくれた死の贈り物

 第12章 文字をつくった人と借りた人

 第13章 発明は必要の母である

 第14章 平等な社会から集権的な社会へ

第4部 世界に横たわる謎

 第15章 オーストラリアとニューギニアのミステリー

 第16章 中国はいかにして中国になったのか

 第17章 太平洋に広がっていった人々

 第18章 旧世界と新世界の遭遇

 第19章 アフリカはいかにして黒人の世界になったか

エピローグ 科学としての人類史

内容

環境要因から格差を分析

本書は、環境要因から世界の経済的・技術的格差を分析していきます。

  • 環境ごとに食糧生産の適性が違うのではないか
  • 環境が技術の発明・伝播に影響するのではないか

このような論点から、経済的・技術的格差が生まれた原因を追究していきます。

環境要因から歴史を分析

本書の後半では、環境要因から世界の歴史を分析しています。

具体的には、以下の地域が分析対象となっています。

  • オーストラリアとニューギニア
  • 中国
  • 太平洋諸島
  • アメリカとヨーロッパ
  • アフリカ

環境要因に注目し、従来の歴史学とは異なるアプローチで分析していきます。

批判

環境決定論に偏っている

1つ目の批判は「環境決定論(=環境が社会のあり方を決めるという考え)に偏っている」というものです。

アメリカの歴史学者ウィリアム・ハーディー・マクニールは、文化・経済などが環境に変化をもたらすことを指摘し、本書の偏りを指摘しました。

ダロン・アセモグルとジェイムズ・A・ロビンソンは、地理的要因によって貧富の格差を説明することの限界を指摘し、ダイアモンドの説を批判しました。

人種差別的である

2つ目の批判は「人種差別的である」というものです。

本書の序盤で「ニューギニア人はヨーロッパ人より知的能力が高いと思った」という旨の主張がなされており、この点が批判されています。

たしかに「人種によって能力に差がある」という考え方は人種差別の要素がありますが、文脈的にニューギニア人を擁護する意図があるため、この批判はやや揚げ足を取ったような印象もあります。

未邦訳の章「Who are the Japanese(日本人は何者か)」の内容に違和感がある

3つ目の批判は「未邦訳の章『Who are the Japanese(日本人は何者か)』の内容に違和感がある」というものです。

この章は、原著では2005年の改訂版から追加されたものの、日本語版には収録されていません。

この章では、日本と韓国が不仲であることが指摘され、日本人のルーツの一部が朝鮮半島にあることを理解すれば和解できると述べられています。

しかし、この主張はあまりにも短絡的すぎるため、日本の有識者から批判されています。

評価

総合評価

銃・病原菌・鉄
総合評価
( 4 )
メリット
  • 歴史における環境要因の重要性がわかる
  • 背景知識があまり必要ない
デメリット
  • 前例の少ない研究であり、本書の主張がどこまで正しいのか判断が難しい

環境要因に注目しながら歴史を分析していく作品です。

著者は歴史学者ではなく生理学・進化生物学の専門家であり、新しいタイプの歴史研究書となっています。

世界史の基礎知識があった方が読みやすいですが、知識がなくても十分に読める難易度だと思います。

世界的なベストセラー作品で、ピュリッツァー賞を受賞し、朝日新聞の「ゼロ年代の50冊」で1位に選ばれるなど、多くの支持を集めています。

ただし前例の少ない研究であり、本書の主張がどこまで正しいかは判断が難しく、前述したように一定の批判もあります。

政治史・経済史に偏っている人におすすめ

本書を通して、歴史における環境要因の重要性を理解することができます。

政治史・経済史を中心に勉強している人は、新しい視点を得られる作品だと思います。

このような視点の作品を読んだことがない人は、本書を読んでみるのがおすすめです。

『疫病と世界史』と相性がいい

本書と似ているタイプの作品として、感染症史の古典である『疫病と世界史』が挙げられます。

実際に本書の中でも関連文献として紹介されており、元ネタになっていると思われます。

『銃・病原菌・鉄』も感染症について言及していますが、さらに感染症への理解を深めたい場合はこちらもおすすめです。


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おわりに

以下の記事では、歴史学をまとめて解説しています。

歴史学の基本をざっくり学びたい方は、こちらの記事もおすすめです。


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この記事を書いた人

■慶應義塾大学文学部日本史学専攻卒
■歴史学の本を年間100冊以上読む

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